初めて、タイへ行ったのは2013年の9月だった。
英語もほとんど話せず、タイ語に至っては挨拶すら出来ない語学力で、不安な面持ちで1人スワンナプーム空港へ降り立った。
空港の外へ出ると、日本では経験したことが無いような湿度を帯びた「ムッとした空気」が僕の肌を覆った。
訳も分からず手招きされるがままにタクシー乗り場へ行きホテル名を告げると、勢いよくタクシーは走り出した。
タクシーの運賃を示すメーターが凄いスピードで回り始め運賃が上昇して行く。
「なんだか運賃上がるの早すぎないか?」
なんとなくそう感じたが、初めてタイのタクシーに乗った僕には分からなかった。
タクシーでタイの空港からバンコク中心部まで行くと300バーツ位と何かで見た気がするけれども。
バンコクのホテルに着いた時にはタクシーメーターは「460バーツ」と表示されていた。
いきなりタイの洗礼を受けてしまったのだろうか。
落ち込んでしまった。
ホテルへ荷物を置いて、夜のバンコクの街へ。
ホテルはバンコク、ナナエリア、スクンビットソイ4のもの凄く離れた場所。
バンコクの土地勘が全くないとはいえ何であんなに不便なところにしてしまったのだろう。
ホテルを一歩へ出て見ると、すでに日は落ち、辺りは漆黒の闇に包まれていた。
初めて来た国で、真っ暗な夜道。
不安だ。
不安すぎる。
そしてどこへ向かえば良いのか分からない。
右か左か。
右のほうに明かりが見える。
僕はソイ4を明かりが見えるほうへ向かって歩き出した。
だいぶ歩いた。
大音量の音楽が流れてるバーが見えてきた。
バーは通りの両サイドにびっしり並んでいて店内では客の欧米人と、セクシーな衣装を着たタイ人のお姉さんが楽しそうに盛り上がっている。
そのバーの前では、日本では見た事も無いような屋台がずらりと軒を連ね、ありとあらゆる料理を提供していて独特の香辛料の香りがあたりに漂っている。
歩道には屋台と、屋台の料理を求めるお客と、バーに出入りするお客と、通行人が肩をすり合わせる様に、せわしなく行き交う。
今まで感じたことが無い熱気とカオス感。
呆気に取られながら、さらに歩を進めると、アラブ街みたいなところへ来てしまった。
そこでは、サンタクロースのように長い髭をたくわえ、頭にはターバンを巻いた、国籍不明なおじさん達が、長いホースが付いた正体不明なタバコのようなものを吸っていた。
なんなんだここは。。
ここでも通りの両脇に食べ物の屋台が、ずらーっと、並んでいた。
こういうところで食べることこそが旅の醍醐味なのだろうか。
タイ語は出来ないのでジェスチャーで屋台のおじさんに注文した。
30バーツだった。
タイラーメン。
クイッティアオだったと思う。
古ぼけた、今にも壊れそうなプラスチック製の、妙に低い椅子に座ってると、おじさんがクイッティアオを持って来てくれた。
テーブルには、何回も繰り返し使ったであろう、使い古して、すっかり汁がしみ込んでしまっている割りばしが、無造作に置いてある。
これで食べろと言うのだろうか。
テーブルの端っこには見た事も無い調味料らしきものも数本置いてある。
ナンプラーだったと思う。
適当に調味料を振りかけて食べてみた。
不味い。
おじさんに悪いので頑張って食べたけど、半分も食べれなかった。
お金を払って逃げる様に屋台を後にした。
ソイ4のバーが立ち並んでる繁華街に戻って歩道を歩いていた。
すると突然、右手を掴まれて暗い路地に引き込まれそうになった。
タイのおかまちゃんだった。
私を誘惑してるのだろうか。
僕は必死に手を振りほどいてホテルへ戻って来た。
その日の日記にはこう書いてあった。
「タイ怖い、ご飯食べれない、帰りたい」
この後、何度も訪れる国になるとは、その時、予想だに出来なかった。