日本から運んだ4百万円をタイバーツに換金しバンコクのプロンポンにあるクルンシー銀行エムクオーティエ支店へ預けた。
最大のミッションを終え心に重くのしかかっていた肩の荷が降りたのか、急に空腹だったことに気が付く。
時刻はすでに夕刻。日本を発つ時に関空で朝飯を食べて以来、何も口にしていない。
BTSプロンポン駅からほど近いsoi26にある食堂で60バーツのトムヤムヌードルを啜り、再びBTSに乗りオンヌットへ向かった。
宿のレセプションには、ラピュタの空賊の女船長ドーラおばさん似の中年女性が座っていて、見た目とは裏腹に優しい笑顔で手際よくチェックインを済ませ鍵を渡してくれた。
その鍵を持ちエレベータで上階へ登り自室のドアを開けようとするのだが、鍵をどちらに回してもうんともすんとも言わない。
額に汗を流しながら5分ほど格闘したが、いくらドアノブを回しても一向に開く気配はなく、踵を返してレセプションへ戻ることにした。
レセプションに戻ると先ほどまで居たドーラおばさんの姿が見えない。
エントランスを出て周囲を見回すとセキュリティーの60代と思しき、少しばかり腰が曲がった痩せたおじさんがいる。
事情を説明すると一緒に自室まで来てくれたので、鍵を渡してドアを開けてもらう流れとなったのだが、おじさんがいくらドアノブを回そうともやはりピクリともしないのである。
10分ぐらいだろうか。格闘したのだが結句おじさんでも埒が明かず、再びレセプションへ戻る羽目となった。
レセプションへ戻ると先ほどまで姿が見えなかったドーラおばさんが戻ってきていて、セキュリティーのおじさんが事情を説明し今度は私も含めた3人で部屋へ向かうこととなった。
部屋の扉の前に着く。
おじさんが鍵を持って扉を開けようとする。その後ろにドーラおばさん、さらに後方に僕が陣取る形。
やはり扉を開けることが出来ないおじさん。そのおじさんに向けてドーラおばさんが大声で叱りつける。
マイチャーイ!(違う!)
体が震えた。
最後方からその成り行きを見守っていた僕は、チェックイン時に凄く優しかったドーラおばさんの豹変ぶりに驚きを隠せない。
今まで全く気が付かなかったが、宿の従業員の中でも序列のようなものが確かに存在するようで、セキュリティーのおじさんの立場は最下層に属するらしく、何度も怒られながら、ペコペコ頭を下げて必死にドアを開けようとしている姿を目の当たりにして、僕自身なんとも悲しい気持ちになった。
歳を取ってから雇われの職につくというのはこういうことなのか。。。
なんだがおじさんに悪いことしちゃったなあ。。。
結句怒られるだけ怒られたおじさんは扉を開けることは出来ず、代わったドーラおばさんによって先ほどまでの苦労が嘘のように簡単に扉が開いた。
『Littlebit Hard』
どうやら立て付けが少し悪いようでドアノブを回したあと体当たり的にドアを押すと開くようである。
今日は色々あってもう体力が残っていない。
明日から部屋探しを始めよう。