イタリア旅行7日目。
不安なままどこ行きかも分からないオンボロ列車に飛び乗った。
ローカル線の車内を見渡す。
そこには。
ドレッドヘアーにサングラスをかけた黒人が右手にラジカセを持ちながらレゲエミュージックに乗ってダンスを踊っている。
その黒人の横をすり抜け、一番前の車両を目指した。
息を切らせてたどり着くと、運転席付近に2人の車掌がいた。
とりあえず1人に尋ねた。
「この列車ポンペイに行きますか?」
その問いに彼は「行く‼」と答えてくれた。
あぁ良かった。間違ってなかった。
ホッとして席に座る。
2駅位過ぎた辺りだったろうか。俺の目の前をいかにもイタリア人と言う胸板の厚い大柄なもう一人の車掌が歩いてきた。
念には念をと言う事で、もう一度同じ質問をぶつけてみた。
「あのー、すみません。この列車ポンペイに行きますか?」
「行かないぞ‼」
えぇ?!
一体どういうことなんだ?!
もしかして逆方向の列車に乗ってしまったのか?
一気に不安になる。次の駅で降りていったんナポリ駅に引き返そう。
そう思いあたふたと出口に向かう私を彼は引き留めた。
「エスコラーノ、チェンジ!」
彼はそう言って列車のデッキ上部に掲示されている路線図を指さす。
その路線図は最初は1本の線が真っすぐ伸びているのだが、ある駅を境にYの字に行き先が2方向に分かれていた。
日本で例えるならば、東京の中央線が立川駅を境に八王子方面と青梅方面に分かれると言ったら分かってもらえるだろうか。
俺が今乗ってる列車はそのYの字でポンペイとは違う方角へ行くと言う。
なので彼はエスコラーノと言う駅で一旦降りて乗り換えろ。エスコラーノ駅で乗り換えて3つ目の駅がポンペイだ。
そう丁寧に教えてくれた。
と言う事は、俺はそのエスコラーノ駅というやつを見逃すわけにはいかない。
そう思いずっとデッキの出口のドアに立って張り付いていると「いいからお前は座っておけ。俺に任せとけ!」
そう言って、彼は自分の厚い胸板を右手の拳でドンッと叩いて見せた。
笑顔が頼もしかった。
エスコラーノ駅が近づくと手招きしてくれた。
そして、ちょうど同じくエスコラーノ駅で乗り換えるらしきイタリア人のおばさんに俺の事情を説明していた。おばさんは、理解したらしく、うんうんと頷きながら聞いていた。
エスコラーノ駅でおばさんと一緒に降りた。
ホームには俺とおばさんの2人だけ。
おばさんはどうやらイタリア語しか話せないようで会話らしい会話はほとんど出来なかった。
10分位待っただろうか。列車がやって来た。
列車の乗り込もうとしたときに、おばさんが車掌に「この列車はポンペイに行くか確認してくれた」そして一緒に乗った。
2つの駅を通り過ぎて「次がポンペイ駅のはずだな」と思ってたら、おばさんがまた立ち上がって、別の車掌に「次がポンペイ?」と聞いてくれていた。
席に戻って来たおばさんは「ポンペイ‼」と笑顔で陽気に俺に教えてくれた。
見ず知らずの東洋人をポンペイに送り届けると言う責任感だろうか。何度も慎重に確認してくれたおばさんに「グラッチェ」と礼を言った。
そして俺はなんとかポンペイにたどり着いたのだった。
つづく。