ぼっち旅inイタリア2011 その8

HV_San Siro  

インテルvsローマ戦終了。

時刻は22時45分。

イタリアの夜の試合は日本では考えられないほど開始時間がとても遅い(20時45分キックオフ)なので試合が終わるとこんな時間になってしまう。

私はこの夜遅い帰りがとても心配だった。

事前の予定ではスタジアムの目の前から出ているはずのトラム(路面電車)に乗ってドゥオモと言う所まで行き、そこからタクシーでミラノ中央駅近くのホテルまで帰るつもりだった。

スタジアムを出ると誘導のスタッフが居たので聞いてみた。

ハンチング
トラムは何処ですか?

スタッフ
左手よ。

ハンチング
グラッツェ


そう言って立ち去ろうとすると。。

スタッフ
駅へのシャトルバスは右手よ。


ん?駅にシャトルバスが出てるのか。。


私はスタジアムに向かう時にトラムに乗れなかった事。

それときっと混みあってる事が予想される車内、スリ等の治安面で若干トラムに不安を抱いていた。


地下鉄で帰るかぁ。

スタッフの指差した右手方向には大勢の人が向かっていた。

帰りもとりあえず人を捕まえては確認する。

ハンチング
駅に向かってる道?

イタリア人
Si(そう)


他の人にも声をかける。

ハンチング
駅に向かってる道?

イタリア人
シャトルバス乗り場だ。


ん?

若干言ってる事が違うが、まぁいずれ駅に向かってる人並みには違いないようだ。

とっぷり日が暮れた狭い道を数百人のインテルファンと一緒に歩く。

辺りは街灯もまばらで真っ暗だがこれだけ人が居ると全然怖くはない。

歩き始めて10分、15分、20分。

駅結構遠いなぁ。

しばらく歩いてるととても広い駐車場に出た。

ここで数百人居た人の波がグッと減った。

 

 

 あれ?

ヤバいぞ。


どうやらこの人の波は駐車場に車で来てた人達だったらしい。

あれだけ居た人達がみんなそれぞれ自分の車に散ってゆく。

それだけではない。

その駐車場から道路は3方向に分かれていて僅かに残った人達も、3方向に分かれて歩いて行ってしまう。

とりあえず駐車場に向かう人達を片っ端から呼び止め『地下鉄の駅は何処?』と聞きまくるも。

返って来る言葉は全て。

 

 

『I don't know』


もしかして俺迷子になりかけているのか?

待て待て。

もう夜中だぞ。

やばいかもしれない。。。


慌ててさらに数人捕まえて『地下鉄の駅は何処?』と聞くと、ようやく『ここ真っすぐ行って右だ』と教えてくれる人が居た。

『近いか?』と聞くと『近い』と言う。

ホッとした。


真っすぐ行って右だな。
私は言われた通りの方向にその道を歩いた。

5分。

10分。。

15分。。。

一向に地下鉄には辿り着かない。

近いと聞いてたのにずいぶん歩くではないか。

おかしいなぁ。

時計の針はもう23時20分を指していた。

最初数百人も居た人の波はもうない。

私の前に女の子2人組。

私の後ろに男性が3人。

私を含めなんとたった6人になってしまった。


6人で街灯もまばらな人気の無いミラノの町外れの道をひたすら歩く。

そしてついに。

前の女の子も居なくなった。。。


残されたのは私。

そして私の少し後ろを歩いてるお父さんと2人の息子と思われる男性3人。

他は誰も居ない。

近いはずの地下鉄の駅はどこにも見当たらない。

正直かなり不安になって来ていた。

私はお父さんと思われる男性に声をかけて見た。


ハンチング
地下鉄の駅はこっちで良いですか?

お父さん
イエス


そしてまたひたすら歩く。

地下鉄の駅らしきものはまだ見えない。

と言うかそもそもこのお父さん達は地下鉄に向かってるのだろうか?

このお父さん達が居なくなったら私は真夜中のミラノの田舎道で完全に一人ぼっちで取り残されることになる。

冷静に考えると相当ヤバい状況だ。

慌てて聞き直す。


ハンチング
あ、あなたは地下鉄の駅に向かってるの?

お父さん
地下鉄の駅の近くの駐車場に向かってる。だから一緒に行こう。


とても不安そうな顔をしてる私にお父さんはそう優しく言ってくれた。

それから駅までの道のりを4人で歩いた。

私のつたない英語ではあるが会話しながら歩いた。


私が『家族ですか?』と聞くと彼は『そうだ。2人の息子と来た』と答えた。

お父さんは48歳で高校生の息子2人を連れて観戦に来ていた。

息子さん達はオーストラリアに留学してると言っていた。

お父さんもイタリア人なのに英語は堪能だし見た目も紳士。

仕事は何をしてるのか聞かなかったがきっと恵まれた家庭なのかもしれない。


話の途中で私が日本人だと知るとお父さんは『今日の長友はとてもすばらしかった』とすごく褒めてくれた。

お父さんに『今日どこに帰るの?』と聞かれたので『ミラノ中央駅近くのホテル』と答えた。

すると彼は一枚のプリント紙を取りだした。

それは地下鉄の路線図だった。

彼はその路線図を広げ親切に説明を始めた。


お父さん
いいか。ミラノ中央駅に行く方法は2つある。CADORNA駅で2号線に乗り換えだ。

ハンチング
DUOMO駅なら3号線?

お父さん
そう。DUOMO駅なら3号線に乗り換え。どっちでもOKだ。この路線図はお前にあげるから持って行け。


そう言ってお父さんは私にプリント紙をくれた。

しばらく歩くと駅が近づいて来た様だった。

お父さんはおもむろに私の左肩に手を廻した。

肩組をして私をそっと抱き寄せた。

そしてこう言った。

「向こうに赤いランプがみえるだろう。あの下が地下鉄の駅だぞ。気を付けてな」


グラッツェ!


そう言ってお父さんと握手。

最後に手を振って別れた。


私は一目散に赤いランプの下を目指して走った。

時間も遅くなってしまっていた。

しかも町外れの駅なので終電の時間が心配だった。

駅に駆け込み驚いた。

何に驚いたかと言うと駅名にだ。


なんと私が目指してた駅の2駅も向こうの駅に辿り着いていた。

かなり驚いてしまった。

しかしそうも言っていられない。

猛ダッシュでホームに駆け込む。

そのホームに電車が入って来た。


なんとか間に合った。。。


実はイタリアに旅立つ前は『深夜の地下鉄は怖いから乗りたくないな』と思ってた。

でも正直この時はそんな事はもうどうでも良かった。

恐怖心よりも地下鉄に乗れた安堵感の方が遥かに上回っていた。


そして深夜0時30分。

なんとかホテル到着。

部屋に入った瞬間安心感から、膝から崩れ落ちる。


私はこの旅を通して色んな出会いがあったが、ミラノで出会ったお父さん。

彼には本当に感謝している。

彼が居なかったら私はこの日帰って来れなかったかもしれない。

これから先の人生。

私はもう彼に会う事はないだろう。

でも。

見ず知らずの東洋人にこんなに親切にしてくれた彼の事を。

私は一生忘れない。


つづく。